上の絵は、日本画の代表作で有名な葛飾北斎の富嶽三十六景(神奈川沖)です。
伝統的な顔料を使用しながら、素晴らしい技術で描かれる日本画。今や材料がアレンジされ、モダンな画風に変化を遂げつつあります。そんな奥深い日本画の基本的な描き方を、独特な絵具の材料やゆめ画材おすすめの道具とともにご紹介したいと思います。
下絵の小下図、大下図は必要?
日本画のキャンバスは和紙になりますが、直接描いたり修正したりすると紙を痛めてしまいます。そのため、別の紙に下描きを行う工程があります。
下絵の手順には小下図(こしたず)と大下図(おおしたず)があります。下絵の手順や必要性は、個人差はありますが基本的な流れとして理解していきましょう。
小下図
大下図
日本画は描き直し、塗り直しなどの修正が難しいからあらかじめ制作手順の工夫が大事なんだね
表現内容や経験によっては下絵はあえてしないのも作品を感覚的に表現するコツかもしれないね
必要な道具と材料
それでは日本画に必要な道具を見ていきましょう
絵の具
岩絵具
天然岩絵具と化学的に作られた新彩岩絵具があります。天然岩絵具は高価で色数も限られていますが、現在は安価で色数も豊富な新彩岩絵具も主流です。岩絵具は膠液を使って、指で丁寧に溶くことが大切です。また、膠の量が重要となりますので、絵具の発色や定着のよい濃度と量を覚えるようにしましょう。
水干絵具(すいひえのぐ)
水干絵具は指や乳鉢で空ずりし、膠液で溶いて使います。岩絵具よりも安価で使いやすいので初心者向けです。手軽に使えるチューブタイプもあります。絵具を皿に移し、膠液を少量ずつ加えながら、指の腹でよく練り合わせます。絵具を多量に溶くときは、まず乳鉢にとり乳棒でよくすります
胡粉(ごふん)
胡粉は白色の絵具や発色を良くするための下塗りや盛り上げとして使います。白として使用したり、混色して微妙な色を作ることもできるので独特の味わいがあります。チューブタイプもあります。胡粉の精製の度合いによって白さの色や使用感、価格は異なります。
顔彩(がんさい)
顔彩は顔料に水性固着剤を混ぜ、練り合わせて、角皿に入れて乾燥させたものです。水で溶いて使います。
粉末絵具
粉末絵具は金属粉末を装飾的に使うもので、泥(でい)とも呼ばれます。金泥、銀泥、アルミ泥などがあります。
金の顔彩は作品がいっそう華やかな表現に。日本画ならではです。
鉄鉢(てっぱち)
鉄鉢は顔料に水性固着剤を混ぜ、練り合わせて、丸皿に入れて乾燥させたものです。角皿に入れたものが顔彩、丸皿に入れたものが鉄鉢と呼ばれています。水で溶いて使います。
膠(にかわ)
膠は動物のコラーゲンを加工したもので、画面への固着力のない絵具の接着剤として使います。原物の膠を使用するには、まずは細かくカットした後水で一晩浸し、寒天状になった液を専用の膠鍋(にかわなべ)で70度程度まで温めて完全に溶かしてから布で濾過して使用します。すぐに使える膠液もあります。
紙
日本画用に漉かれた和紙を使います。ドーサを引いて滲み止めをし、パネルやボードに張ります。麻紙ボードはそのまま使えます。
筆
筆は最初は、彩色筆、面相筆、平筆、などから表現に応じて揃えましょう。
刷毛筆
ドーサ用や絵具用の刷毛として使います。絵具刷毛は色別に何本かあると便利です。
その他必要なもの
・明礬(みょうばん)
和紙のにじみ止めとして使用します。膠液に明礬を少し加え、紙などのにじみを止めて絵具の剥落を防ぎます。粒や粉状の明礬もありますが、すぐに使える状態のドーサ液も便利です。
・絵具皿、梅皿、乳鉢、乳棒
乳鉢は絵具を溶いたり、すりつぶすのに使います。
・墨、硯(すずり)
下描き用などに使用します。液状の墨汁もありますが、紙に対しての接着力が弱いのでなるべく固形のものがおすすめです。
・ぼろ布、ティッシュ、古新聞、エプロン、チャコペーパー、クロッキー帳など
絵の具を一つ一つ作る作業は本当に手間がかかります。ですが自分だけの絵の具、こだわりの表現ができる楽しみもあります。
制作の流れ
基本的な制作の流れになりますが、そろえる道具や作風、経験によって工程は変わっていきます。
1、作風イメージやモチーフを決める
常識にとらわれず、固定概念を捨てて好きなテーマや発想を大切にし、楽しく描きましょう。最初は身近な花や野菜が描きやすいです。風景から動物、人物、アニメからモダン、抽象的表現まで日本画のテーマは様々です。
2、小下図を作る
全体を構成しながらクロッキー帳などに作成します。小さな面で描くことで作業も容易に、明確なイメージが構築しやすいメリットがあります。
3、大下図を作る
小下図で練ったものを本番の紙と同じ大きさに描きます。大きさやバランスを決めるための重要な作業です。本番の和紙では修正ができないので、この工程で内容を決定させます。
4、紙にドーサを引く
キャンバス紙(または絵絹・板・麻布・綿布など)に、ドーサ(礬水)を引きます。ドーサ引きの必要がない麻紙ボードはそのまま使えるので便利です。
5、紙を張る
パネルに紙を張ります。すでにパネルに和紙が用意されている麻紙パネルもあります。
6、骨描き(こつがき)
チャコペーパーで下図を本紙に転写し、薄墨で輪郭を描きます(骨描き)。チャコペーパーは水溶性なので、制作の途中で線が消えて便利です。他にもトレーシングペーパーなど、転写方法は様々です。
7、下塗り
最初は墨で濃淡をつけていく手法もあります。日本画の絵具(胡粉、水干絵具、岩絵具、膠液など)は、重ねて塗る表現が多いため仕上げの効果を考えて下塗りに充分な時間をかけます。大きな刷毛等を用いムラにならないように注意しながら色を付けていきます。
8、彩色
岩絵具や水干絵具を使って彩色します。薄い色から塗り始め、次第に濃い色を塗り重ねながら全体の調子を整えます。必ずしも実際の色を塗っていく必要はありません。イメージを絵具に託して自分だけの世界観を表現しましょう。
9、仕上げ
全体のバランスを見ながら、細かいところを仕上げます。完成すれば、落款とサインをします。
油彩や水彩と違って、工程がたくさんあるね。表現力だけでなく道具の細やかな管理や正確性も必要ね
効率的に進められる道具も揃っているから、自分に合うものを選びたいなぁ
ゆめ画材おすすめのアイテム
日本画の材料は種類が多くて最初は混乱しますね。初心者向けの便利なキットもあるので、ますはそこからスタートするのもいいでですね。
・鳳凰 岩絵具 初心者キット
初心者でもすぐに描けるように岩絵具や用具、下絵にいたるまでのセット内容です。
・ゆめ画材セレクト 絵手紙 ビギナーセット
墨運堂の顔彩24色セットに水筆、ことばのヒント絵手紙365日の本の入ったセットです。
・吉祥 チューブ絵具 24色セット
水干絵具をより手軽に使用できるように、定着材を入れて練りこんだもの。筆に水を含ませて使用します。
じっくりお気に入りの作品を仕上げよう
いかがでしたでしょうか。材料の種類や制作工程の多さに最初はびっくりすることもあるかもしれません。
制作工程ひとつひとつの細やかな作業も、丁寧に取り組むことでぐっと魅力的な作品に反映されます。岩絵具の奥深い色のように、作者の想いが奥深く作品に滲み出てくるのも日本画の魅力のひとつだと思います。
かの葛飾北斎は晩年になっても画法の研究を怠らず続けていたといわれます。試行錯誤しながら新しいスタイルに挑戦して自分らしい表現を見つけてくださいね。