あの画家たちのデッサン その②

オストラコン 石灰石 遺跡 デッサン・スケッチ
デッサン・スケッチ
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みなさまこんにちは。

いつもゆめ画材のブログへお越しくださりありがとうございます。

前回のブログ「あの画家たちのデッサン その①」ではポピュラーな5人の画家たちのデッサン(スケッチ)を一緒にご覧いただきました。今回もいくつかの作品をピックアップしてみましたので、お楽しみいただければ幸いです。

レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン Rembrandt Harmenszoon van Rijn

現在のオランダに位置するネーデルラント出身の画家、レンブラントによるインクスケッチです。数多くの自画像を残したことでも知られています。

若干14歳で大学へと飛び級するほどの優れた頭脳を持ちながらも、彼の関心と興味は専ら絵画やデッサンに向けられていたといわれています。両親はそんな彼に大学を中退させ画家のもとに弟子入りさせたのでした。(とても理解ある親御さんですね!)

彼の創作活動に於いて、風景画は主題の大きな一部を占めていました。1650年の作品とされるこの素描は「Cottage among Trees(木々に囲まれし小屋)」と題されています。素朴の中にも深みを感じさせる巧みな表現は、油彩画のみならず長年の画家人生の中で取り組みつづけたエッチングの制作が影響を与えているといえそうです。

この作品の面白い(←失礼?)ところは、作品の右端の方に紙を追加し(縦に線が入っているのが見えるかと思います)途切れていた木の枝や葉、柵、地平線などを書き足していることです。追加した部分の紙片を指で隠して元々の構図をご覧ください。元々の構図では風景の一部として切り取られたいわば俯瞰の趣を擁していた景色が、ほぼ左右対称に構成されることで中心へと視線が向かい、一気に吸い込まれるような主観の世界へと誘われるような印象に変化しています。

 

作者不詳 Unknown Artist.1

エジプト新王朝時代のこちらの作品をご覧いただきましょう。紀元前1479年から1458年ころのものです。表面が平らな石灰石に、グリッドを使ってスケッチがなされています。

ここに描かれているのは、特徴的なかつらを被った当時の役人だそうです。神殿の執事など、いくつもの重要な役職を任されていました。

古代エジプトのこうした精密に計算された作品の影を垣間見るに、あの不思議なピラミッドの建造にもどこか納得がいくような気持になります。このグリッドにしても、各々の方眼はほぼ同サイズを意識されていることがわかります。首から肩にかけては描き込まれた様子がないことから想像すると、この作品は頭部の習作なのかもしれませんね。

作者不詳 Unknown Artist.2

こちらの犬のスケッチも、石灰石の陶片に描かれたものです。めちゃくちゃ可愛くないですか?たまたまなのか後からそうなったのか顔の下半分が割れてしまっているために、ひょっこりと覗いているかのような表情がコミカルです。お供えや宗教的儀式などに用いられるものは通常横向き(横顔)に描かれえるそうです。確かに上で紹介したエジプトのお役人の絵然り、当時の神殿の壁画絵などは皆横向きですよね。ではこのように正面から描かれているものはどういった目的で描かれていたのでしょうか。

歴史を紐解いてみると、これらは政治風刺や物語のイラスト、あるいは遊び心をもって制作されたカートゥーンであることが分かっているのだそうです。擬人化されたような面持ちにぺたりと垂れた両耳。現代でも十分に活躍しそうなこの愛らしいキャラクターは、紀元前1295年から1070年に生み出されたのです。

エドガー・ドガ Edgar Degas

エドガー・ドガ マネの肖像 ドガデッサン

帽子を持ち椅子に腰かけ軽く足を組んでいるモデルの男性は、画家のエドゥアール・マネ。

マネの肖像はモノクロームの写真も残されていますが、その写真と比べてもそっくりそのままですね。この作品が描かれた1865年すでにパリではいくつもの写真館ができており、完成までに時間を要する油彩の肖像画の需要は新たな技術に押されはじめていました。画家たちにとってそんな新技術を敵視したとしても不思議はないところですが、常に可能性を追うことをいとわない彼ら芸術家は寧ろ、それらの写真技術には積極的に興味を示したといわれています。

事実、ドガは後に小型のコダック・カメラを手に入れ、人物モデルの負担を軽減するため、モデルポーズを写真に収めデッサン代わりに活用していました。さて、もう一度このデッサンを見てみましょう。帽子や脚の位置が薄っすらと残っています。描きながら構図を探ったのでしょうか。

リアルな写実性やその立体感には、ドガの好んだ西欧絵画の古典であるルネサンス美術の影響も感じられます。そしてまた新たな文明である写真画像が捉えた瞬間的な視点や安定性が、画家の技術と合わさりさらなる表現の可能性を広げていったのではないでしょうか。

オディロン・ルドン Odilon Redon

ルドン デッサン 幻想 幻覚 妄想 オディロンルドン

ゾっとするけどなんか好き…。不思議な魅力というにはあまりにも訳が分からない異次元を、大袈裟でなくあくまでナチュラルに表現してしまう。だからこそ精神的には怖さ倍増。でもやめられない、惹かれてやまない。そんなルドンさんのデッサンです。その題名も「Hallucinations」。幻覚や妄想、幻聴などを意味しています。

意識や無意識、夢、深層心理、精神世界——。ルドンが見据えていたのは、外側の世界ではなく本質といえる部分なのかもしれません。だからこそ彼の作品は、奇妙でありながらも尖ったような拒絶感ではなく、やわらかな毛布にも似た感触を観るものに与えてくれるのではないでしょうか。

この作品は渋紙(柿渋で染められた紙)に木炭を使用して描かれています。淡く漂うようなぼかしのテクニックを多用し強い明暗は使用していませんが、それでも全体がぼやけることなく奇妙な「何か」と植物の生える草原を融合させている。まさに天才的な構図表現といっても過言ではなさそうです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は、時代も飛び越えたセレクションでお届けいたしました。

絵を描く、絵を見る。その姿勢は常に自由な可能性のもとに行われてこそ真価に触れることができるのかもしれません。

それでは、次の機会にまたお会いしましょう!

 

ゆめ画材